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大阪高等裁判所 昭和51年(う)1069号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、検察官稲田克巳作成の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は被告人作成の答弁書のとおりであるから、これらを引用する。

論旨は、原判決の未決勾留日数本刑算入の違法を主張するので、所論にかんがみ記録及び当審の事実調べの結果を調査検討すると、(一)原判決の主文は、「被告人を懲役一年八月に処する。未決勾留日数中四〇日を右刑に算入する。」となっているところ、被告人は原判示第一の各事実(以下本件という。)について昭和五〇年五月三一日求令状により起訴され、同日勾留状の執行を受け、以後勾留継続のまま同年九月五日原判示第二の各事実を追起訴され、両事件の併合審理を経て同五一年七月八日原判決の言渡しを受けた。(二)他方、被告人は、別件窃盗事件(以下別件という。)につき同四六年一二月六日勾留状の執行を受け、同月一五日大阪簡易裁判所へ起訴され、同月二一日保釈許可決定により釈放されたが、同五〇年三月二二日保釈取消決定により収監され、以後勾留されたまま同年七月七日右裁判所において「被告人を懲役一年四月に処する。未決勾留日数中八〇日を右刑に算入する。」との判決の言渡しを受け、同判決は同月二二日確定し、即日右の刑(未決勾留裁定算入八〇日、法定算入一五日)の執行指揮を受け、同五一年八月一八日右刑の執行を受け終えた。この別件の未決勾留日数は積算すると合計一三八日となる。(三)右(一)、(二)によると、原審における本件の勾留は、勾留初日の同五〇年五月三一日から原判決言渡しの日の前日の同五一年七月七日までであるが、そのうち別件の刑の執行開始日にあたる同五〇年七月二二日から同五一年七月七日までは別件の刑の執行と重複する期間であり、その余の同五〇年五月三一日から同年七月二一日までの五二日間は別件の未決勾留と重複している。

ところで原判決は、右五二日の未決勾留日数から別件の未決勾留法定算入日数一五日を控除した三七日だけが本刑に算入しうべき本件未決勾留日数であるとしながら、別件のみの勾留期間である同五〇年五月二三日から同月二九日までにつき、その間本件の取調がなされていて、「別件についての未決勾留が実際的な効果の面で本件の勾留でもあるかの如く作用している事実状態にあり、しかも本件が……余罪の関係にあることを考慮すれば、たとえ両事件につき併合審理がなされていなくとも、これに準じ、右別件の未決勾留日数中本件起訴前の法定勾留期間内であることが明らかな前記取調期間内の日数は本件の本刑に算入できるものと解し≪昭和四八年一一月一四日高松高裁判決。判例時報七三七号参照≫、別件……の未決勾留を本件……の本刑に算入した次第である。」として、四〇日の未決勾留日数算入の根拠を説示した。

この原判決の説示に対し、所論は、原判決と同じく適法に本刑に算入しうる本件未決勾留日数が本件につき勾留状が執行された同五〇年五月三一日から別件判決言渡し日の前日の同年七月六日までの三七日間であることを前提として、最高裁判所昭和五一年三月一九日第一小法廷決定等を引用し、併合審理されない別件の未決勾留日数を本件の本刑に算入した原判決には刑法二一条の解釈適用を誤った違法がある、と主張する。

そこで検討するに併合審理されていない他の被告事件の未決勾留日数を本件の本刑に算入しえないことは所論引用の最高裁の各決定および高裁の各判決の明示するとおりであり、原判決引用の高松高裁の判決は不起訴事件の未決勾留の算入に関する事案であって本件に適切でない。原判決の右説示は、刑法二一条の解釈適用を誤ったものと言わなければならない。

しかしながら前記(一)ないし(三)の事実関係からすると、本件の原審未決勾留期間のうち別件の刑の執行と重複する同五〇年七月二二日以降の分については、その本刑算入を認めることは不当に被告人に利益を与えるもので許されないから、まずこれを本刑算入期間より控除しなければならない。この点は原判決も所論も同旨である。

つぎに右控除後の本件未決勾留日数五二日は全期間にわたり別件未決勾留と重複し、しかもその間の同五〇年七月七日から同二一日までが別件の控訴申立期間(未決勾留法定通算日数一五日間)となっているので、この点を検討するに、一般に、未決勾留が他の事件に対する裁判確定によりその本刑たる自由刑に算入されてすでにその執行に替えられた他の未決勾留と重複している場合に、かような未決勾留をさらに本刑たる自由刑に算入することは、刑の執行自体と重複している場合と同様、被告人に不当な利益を与えるもので、刑法二一条、刑事訴訟法四九五条の趣旨に違反し許されない。しかしながら、右算入に充てられる未決勾留の日数は、刑の執行があったとされる刑量を示すにすぎないものとして扱われるべきであるから、当該未決勾留日数につき、未決勾留期間中の暦に従った特定の日を起算日として刑の執行があったものとして右重複の有無、範囲を論ずべきではないのである(最高裁判所昭和四〇年七月九日第二小法廷判決、刑集一九巻五〇八頁、福岡高等裁判所昭和二八年一一月七日決定、高裁刑集六巻一三七八頁参照)。したがって、この点では、特定の前記七月七日から同二一日までの一五日間が法定算入され、本刑に算入すべき本件未決勾留日数は三七日しかないとする原判決の説示及び所論はいずれも誤っている。

そこで、以上の見地に立って、本件につき果して四〇日の未決勾留日数の本刑算入が可能であったか否かを検討するに、別件の懲役一年四月の刑に算入されたのは、合計一三八日間の未決勾留日数のうち裁定算入八〇日、法定算入一五日の計九五日であり、これを差引くと別件未決勾留日数は四三日間残存することになるから、別件と本件の未決勾留が重複する五二日のうち四三日までは本件の本刑に算入しうるものと言わなければならない。そうすると、「未決勾留日数中四〇日を算入する。」とした原判決には、結局結論において未決勾留日数算入の誤はなく、論旨は理由がないことに帰する。

よって、刑事訴訟法三九六条、一八一条三項によって主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤原啓一郎 裁判官 野間禮二 笹本忠男)

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